Round-Robin From Japan  第26章  信号     第27章はこちら              

夕焼けに染まる空の下リヴィエラはどんどんフレイザーとディーフのいる場所から遠ざかっていく。
それでも佐都子はずっと後ろを見続けていた。涙でもう景色は全然見えなくなっているのに…・・

「ああ!もぉっ、人の車でメソメソするなよ。そうならそうと早く言えよ!」
鼻をすすっている佐都子を見るに見かねたのだろう、レイは荒っぽく言い捨てるといきなりぐるりとハンドルをきった。

キューイーン。タイヤの擦れるけたたましい音が道路上に響き渡る。
佐都子には何が起こったかわからない。いきなり地球がひっくり返ったかのように目が回った。

そう、レイはリヴィエラをその場で一回転させUターンをしたのだった。
プーップーッ クラックションがいっせいに鳴り響き、街行く人々が振り返る。
いきなり大きな車が向きを変えたのだから新宿駅前の道路はパニックだ。
立ち往生する車に構わずレイはそのまま車線を変更して逆戻りしてすっ飛ばした。

緑の車がスーっとホテルの向かい側に滑りこむ。

見るとフレイザーとディーフが一歩も動かずさっき別れた場所にたたずんでいるではないか。
ディーフは見慣れた車の登場に尻尾をパタパタ振っている。
「レイ?」フレイザーが驚いて声を高くした。
「おまえこそ何でまだここにいるんだよ。」運転席からぬうっとレイが顔を出す。
「君たちが見えなくなるまで見送ろうと思って。」律儀な騎馬警官らしい答えだった。
「おまえ、カメが友達だったらどうすんだよ。一生その場所に立って見送るのか。」
「レイ、僕はカメの友達なんかいないよ。」
「ジョークだよ、ジョーク。ったく。」
真面目な顔をして答えるフレイザーにレイが呆れる。
「面白くないですよ。そのジョーク。サイテーかも。」さっきまで泣きべそだった佐都子が
ボソっと言った。

「おまえなー誰のために戻ってきたと思ってんだよ。さあ。」
レイは佐都子の腕を掴むとフレイザーの前に無理やり立たせた。そしてバンっと背中を叩いた。
「ほれ、言えよ。」
「はあ?」
ナイスルッキングなフレイザー改めてを真正面にすると佐都子は知らず知らずのうちに赤くなってしまう。
「言うって何をですか?(汗)」佐都子の声が緊張で震えている。
「あーもう、じれったい。」レイが佐都子の横に並んで立つと、きょとんとステットソンハットを傾けているマウンティを指差してこう言った。
「おまえ、明日ヒマ?」
「うん、ヒマだよ。」
「こいつが、明日、おまえを案内したいって。」
マウンティの不思議そうな顔が柔らかな笑顔に変わった。
「えええー?誰がそんなこと…・」佐都子がびっくりして眉を上げてレイを見た。
「案内したくないのかよ。」
「い、いえ、そんなことは、なくもなくもなくも…・(しどろもどろ…)
佐都子の答えはネズミの囁きのように小さくなっていった。
「じゃぁ Deal!」
「で、で、ディール(汗)…・たって??どこを案内すればいいんですか。」
「シカゴの俺に聞くなよ。」
「はあ…」なんとも頼りない案内人である。

結局朝10時にホテルの前に待ち合わせて出かけることにした。


*** 佐都子を送っていく帰り道 リヴィエラの中

夕暮れが薄い暗い夜に変わろうとしていた。あちらこちらに電灯がつき始めてチラチラと輝いている。
佐都子はレイの突拍子もない提案にまだ迷っているようだった。
「一緒に来てくれますよね。」佐都子がレイの方をチラッと見た。
「誰がだよ。」
「レイ…」
「いいのかよ。俺がいても。」
「やですよ。二人っきりなんて…。」
「わかってないなお前、なんのために俺がUターンしたと思っているんだよ。人が気ぃ使っているのに。」
「じゃ、いかない。」
佐都子はダダっこのようにちんぶりかえった。
「alright alright しょうがねーな。俺も付き合うよ。」
佐都子はほっと一安心して、外の景色に目を移した。
また明日もフレイザーたちと一緒にいれる。実はそう考えるとうれしくてたまらない・・・・。
顔が思いっきり緩んだため、隣り斜線のトラックの運ちゃんが気味悪がって通り過ぎていった。

** 次の日

雲ひとつない快晴。まさに観光日よりだった。
輝かしい日の光は徹夜で観光ルートを考えた佐都子には眩しいぐらいだった。
眠気と格闘しながらホテルに向かったが、その眠気もフレイザーの姿を見つけたとたん一挙に吹っ飛んだ。
フランネルのシャツにGパンとステットソン。(制服でないフレイザーもまたステキ・・・・)
と見とれているとレイがビーッっとクラクションを鳴らした。
「おい、行くぞ。」
佐都子は最初は「はとバス」にでもと考えたが、フレイザーがきっとディーフにも日本を見せてあげたがるだろうと思ってやめた。よって車で移動することにしたのだった。

春のうららかな日を受けて、車は都心を走り抜け台東区に入っていった。
隅田川には観光船が行き来し、青い空にぽっかり白い雲が浮んでいる。
時間がゆっくり流れているようななんとものんびりとした景色だ。

「そこの信号を渡ったところを右に曲がってください。」
佐都子が地図を見ながらレイを道案内した。

ブォー(リヴのアクセルの音)
しかし、レイはそのまま曲がらずに真っすぐ行ってしまった。

「レイ、今の信号を曲がらないと…」
「何でだよ。」
「そう言ったじゃないですか。」
「青信号なんてないぞ。」
「ありましたよ。信号。」
「ああ、信号はあったさ。でも【緑】だったぞ。」

すると後部座席のフレイザーが身を乗り出した。
「レイ、日本ではでも信号って言うんだよ。小さい頃、おばあちゃんの図書館で読んだんだ。」
「えっほんとか?何て色オンチな国なんだよ。じゃあ俺の目の色も青か?」
フレイザーがもっと身を乗り出してレイの耳元で囁いた。ちょっとハスキーな声で…
「君の瞳は緑さ。この車と同じ、ビューイック・リヴィエラと同じ*エメラルド*グリーン。」
レイが息を飲んで振り返った。
「ベニーー…」
二人は一瞬見つめ合う。

ゴホッ ゴホッ 佐都子が咳払いをした。
「すみませーん! さっさと曲がってください。」

我に返ったレイが姿勢を正してハンドルを握り直した。

「ああそう。」(汗)

心がどっかに行ってしまっているレイは赤信号を無視して曲がっていった。

つ・づ・く

なんか完全に仲間ハズレになっている佐都子です。3人+1匹は仲良く浅草散歩ができるのでしょうか?また来週(^^)/~~~


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