Round-Robin From Japan  第27章  浅草散歩     第28章はこちら              

駐車場に車を預け、三人と一匹は雷門に向かって歩きはじめた。
目の前には浅草シンボルの大提灯。
「100kgもあるんですよ。」
佐都子がそう説明すると、フレイザーとレイ、そしてディーフまで上を向いて驚いている。
なんだかその姿が妙におかしくて佐都子は思わず微笑んだ。

雷門を過ぎるとそこは仲見世通りだ。宝蔵門までの300mほどの参道にはせんべいや人形焼などの食べ物屋や土産物屋など雑多な店が軒を連ねて並んでいる。
江戸情緒溢れる店先は祭りの雰囲気をかもしだしていて歩いているだけで楽しい。
フレイザーたちは日本風の品々をとても興味深そうに見入っていた。
日曜の浅草は特に人が多く、お店の人も威勢よくお客に声をかける。

「ちょっとべっぴんさん、食べていかねぇかい?」
せんべい屋のおじさんが呼び止めた。
「やだわ!おじさんたら…」と佐都子がちょっと恥ずかしそうに身をくねらせると、おじさんがフレイザーを指差した。
「違うよ。こっちのお方。映画スターのように綺麗じゃないか。」
「……・」
佐都子ははっきりと「違う」と言われてムッとした。
そしてそのまま、この場は無視して通り過ぎることにした。

「佐都子、あのお店の人がなんか話し掛けていたけれど?」
「フレイザー、あれは音が出る食べ物なんですよ。あなたには無理です。」
佐都子はちょっとつっけんどんな態度をとった。
(あの言葉は女性対してしか使わないのに…・ブツブツ…)
横で察したようにレイがニヤリとした。

仲見世を抜けると浅草寺の境内に入る。空がぱっと大きく広がり、その下ではたくさんの鳩が群がっている。浅草独特ののどかな景色だ。

が、不思議なことにフレイザーたちが入ったとたんバタバタバタっと境内の鳩が騒がしいほど羽根音をさせて一羽残らず飛び立った。

「なんだ?なんだ?」
観光客が一斉におののく。

原因はディーフだった。鳩の本能か、いつもと違う動物の侵入に驚いたのだろう。
いくら都会慣れしたとはいえ狼は狼なのである。

すると今度はレイが大声をあげた。
「火事だ!」
「へっ?」
どこを見ても火事らしきものは無い。レイが火事だと思ったのは煙がもうもうと立つ香炉のことだった。
「火事じゃないですよ。あれは線香の煙で、 あの煙を体の悪いところへ当てると、治癒すると言われています。」
何かと騒がしい観光客のフレイザー一行である。

三人は近寄って中を覗いた。
「レイ、どこか痛いところはありますか?」
「目。」
「じゃあ、煙を目につけてください。」
「でも、煙で痛いんだぜ。」
「…・・。」

三人はその後、本堂をお参りして、少し北の浅草神社のほうに向かった。
佐都子は寺と神社の違いなど丸暗記してきたものを二人に説明した。多少のレイのつっこみもあって喋っているうちにすっかり疲れてしまった。

「すみません。少しお茶しませんか?」
「ああ。いいよ。」
「何か食べたいものはありますか?」
「ドーナツが食いたいな。」
「せっかく日本に来たのですから和菓子にしましょう。」
「最初から決まっているんだったら聞くなよ。」
「……。」

三人は近くの甘味処に入ることにした。しかしやっぱりディーフは入れない。
フレイザーは前回の件もあるので近くに池や水槽がないのを確認してディーフを店の前につないだ。
ディーフがうらめしそうに三人を見る。

「弱ったな。これじゃあ入りづらいな。」
「そうだ、たこ焼を買ってきましょう。」
そそくさと佐都子はすぐ横の屋台でたこ焼を買ってくるとディーフの前に置いた。
ディーフはむしゃむしゃ嬉しそうに食べている。さすが、ディーフ、日米加を問わずジャンクフードなら何でもOKのようだった。

ディーフにたこ焼を与えた三人は心置きなく店内に入った。
フレイザーとレイはここでも佐都子のオススメに従って注文をすることにした。
最初はあんみつを…とも思ったが180cmの大の男二人がちっちゃな寒天をスプーンですくって食べるのはあまりにも絵にならない。
よってフレイザーは柏餅セット、レイと佐都子は桜餅セットを食べることにした。
待つことしばし、和菓子が到着した。

「へーこれが桜餅か。面白いな…。」レイがちょこんと皿にのった二個の餅に感心している。
「薄い小麦粉の皮に餡が包まれていて、それが桜の葉に巻かれているんですよ。」
早速、レイが桜の葉をとって食べようとしたところで佐都子がまたアドバイスをした。
「あ、レイ、桜の葉は塩漬けにされているから食べることができますよ。餡の甘さを葉っぱの塩気と共に楽しむのが桜餅の味わいなんです。桜餅は葉っぱごと食べるのが"通"です。」

そう言った後、しばらくして佐都子は横のフレイザーを見て青ざめた…・。

「フレイザー…・もしかしてあなた、柏餅の葉、食べたんですか?」
「だって、佐都子それが "通"だって…・・」
「……。」


スーパーマウンティは鉄の胃でした。ではまた来週(^^)/~~~


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