Round-Robin From Japan  第28章  ビッグビーバー     第29章はこちら              

 三人はお菓子を食べ終えるとお茶を飲み干し、ほっと一息ついた。
フレイザーとレイが満足げにうれしそうな笑みを浮かべている。
佐都子にとってとても幸福な瞬間だった。
ふと、フレイザーに向かってレイが言葉をかけた。
「なあ、日本にはちょっとは慣れたか?」
「ああ、ホテルは快適だし、皆さんもやさしいし、ほんと僕とディーフは恵まれているよ。」
それを聞いてレイが思い出したようにため息をついた。
「ホテルといやあ、お前のホテルはいいよな。俺が先日張り込みで泊ったホテルは変わっていてよ、部屋に風呂が無いんだぜ。温泉とかいうでっかい風呂に入れって言いやがる。それに寝るときは寝袋のような綿の上に寝かされるし、なんてたってバスローブが無いんだぜ。テーブルクロスみたいなものを体に巻いて寝ろっつうんだからひどい話よ。」
レイがやや眉を下げて首の後ろを掻いた。
よくよく話を聞いてみるとレイは例のギャングのボスを追って東伊豆海岸まで捜査に行ったらしい。そして近場の温泉旅館に張り込んでいたのだった。レイの浴衣姿を想像するとなんだかおかしい。佐都子はプッと吹き出した。
「何がおかしいんだよ。ったく、こいつみたいに赤のロングジョンでも持って行けばよかったよ。あーあ。」
最後の一言に佐都子の頭のベルが鳴った。そしてフレイザーを見る。
「ロングジョンって何ですか?」
「それはね、佐都子、冬用の手首・足首まである暖かい厚手の下着のことを言うんだよ。カナダで僕はそれをいつも着用していて日本にも持ってきたんだ。」
「はあ?そうですか?でも何でそれをレイは知っているんですか?それも色まで・・・。」
「・・・・・・。」
さっきまでお口が滑らかだったフレイザーが固まる。

するとバツの悪そうにレイがそそくさと席を立ち始めた。
「じゃ、俺、行くわ。」
「ええ?行くってどこに?」佐都子はレイの急な帰る宣言にお茶が鼻から出そうになった。
「署だよ。まだやらなきゃならないことがあるんだよ。」
「だって・・・。」
「お前たちは観光続けろよ。外で"たこ焼き"食っている狼、俺が連れてくから。心配すんな。後でホテルに届けてやるよ。 じゃあな。」
「すまない。レイ。」
「えええ!レイ〜。」
佐都子はレイのコートの端を引っ張る。
しかし佐都子の引きとめも虚しく「がんばれよ。Way to go!」と肩をポンと叩いて出て行ってしまった。

(どうしよう〜この後、フレイザーと二人っきりなんて・・・。これってデートみたいじゃ・・・・。)二人で歩いているところを想像しただけで赤くなってしまう。
向かえに座っているフレイザーをチラっと見るとフレイザーの方は別に何も感じないようににこにこ笑っている。いい気なもんだわ・・と佐都子は思った。

とにかくレイの予想外の戦線離脱に徹夜の計画が音を立てて崩れていった。車で全て回る計画はパーだ。なんとか代案を考えねば・・・。とりあえず店を出て歩きながら考えることにしよう・・・佐都子たちは店を出ることにした。
勘定を払おうとしたら店のおばちゃんはもう勘定は済んでいると言った。
レイが払ってくれていたのだった。レイのさりげないやさしさである。

それにしても、代案がすぐ浮かばない・・・フレイザーに聞いても何でもいいって言うだろうし・・・とふと見上げると遊園地の看板が目に入った。

「花と夢やしき遊園地?」

浅草に古くからあるレトロな遊園地だ。フレイザーも興味深そうに眺めている。
東京観光に来たカナダ人をこんなところに誘うのもどうかと思ったが他に案が浮かばない佐都子は恐る恐るフレイザーに聞いてみた。

「あのー遊園地でもどうですか?」
「いいアイデアですね。」
予想通りフレイザーは反対はしなかった。そして人のよさそうな笑顔をステットソンハットの下に覗かせた。

***

園内は子供連れのファミリーやカップルで賑わっている。ちょっと時代遅れのポップミュージックが流れなんともほのぼのとした雰囲気だ。
目新しさにはまるで欠けるが、異国のフレイザーにとっては物珍しいのだろう、キョロキョロ嬉しそうに周りを見回している。

 二人が歩いていく先に一番最初に現れたのは「お化け屋敷」だった。黒い小屋の外の看板には幽霊の絵がものものしく書かれている。一つ目小僧や傘のお化け・・・
まあどうせ大したことがないだろう・・・ととりあえず入ることにした。

しかし、それは自分の足で歩くタイプのお化け屋敷で、入っていきなり真っ暗闇が広がっていて想像した以上に不気味だ。まだ何も出てこないうちに佐都子の足がすくんでしまった。
(ゲッ。思ったより怖い・・・どうしよう。)
そんな佐都子の雰囲気を悟ったのかフレイザーがゆっくりと腕に手を回してきた。
「大丈夫ですよ。僕がついています。」彼は静かに言った。
(ゲーッ、全然大丈夫じゃないわ〜。どうしよぉー。大汗)
お化けより何よりも佐都子はこの"手"に大困惑してドキドキしてしまった。

バサッ!! そんなところに一人目の幽霊が出てきた。
「うらめしや〜」
井戸から出てきたその幽霊は白い着物を着て、長い黒髪が顔の上に垂れ下がっている。そしてその下には青い白い肌、目は紫に腫れ上がり、口から血を滴らしている。

「キャーッ!」

いつもだったら全然怖くないのに極度の緊張のあまり佐都子は叫んでしまった。
久しぶりに大げさに驚いてくれた反応にお化けも気をよくしたのか、ノリノリでこちらのほうに身を寄せてくる。

「ぎょえー。」思わずフレイザーにしがみつく。(皆さん、すみません。)

しかしその怖さもフレイザーの挨拶でどっかに行ってしまった。
「Hello. my name is Constable Benton Fraser, Royal Canadian Mounted Police. I first came to Japan on the trail of the killers of my father…..私の名前はベントン・フレイザーです・・・・父を殺した犯人を追跡して日本にやってきました。」
っとお化けに対して律儀に自己紹介を始めたのである。

それからお化けの名前を呼ぶ。
「Hi Ms. Oiwa. Pleased to meet you. こんにちはお岩さん。はじめまして。」

結局、お化け屋敷のお化け全員にフレイザーは挨拶をしていった。
おかげで全然怖くない。これはわざとそうしたのか彼のキャラかわからないがとにかく無事に二人は出てくることができた。

佐都子はやっぱりこのカナダ人が良く理解できない。

次に二人が目にしたのは射撃場だった。
遠くにある的をおもちゃのライフルで撃つゲームだが、結構、的が遠くにあり、それも小さくて難しそうだ。
佐都子はRCMPのフレイザーの腕前をちょっと見たくなり、フレイザーを誘った。
「あのーこれやりませんか?」
「ええ、よろこんで。」

フレイザーがゆっくりとライフルを構える。ちょっと真剣な横顔がとても凛々しい。佐都子は改めてフレイザーに見とれてしまった。
バン、バン、バン!!!
すべての的を一瞬のうちに彼は撃ち抜いてしまった。さすが、カナダ騎馬警察ベントン・フレイザー。少しの狂いもない。

「すごいね。お客さん。初めてだよ。こんな人。はい、景品のビッグビーバー。」

と射撃場のおじちゃんから等身大のビーバーのぬいぐるみを渡された。
「どうしましょう。こんなのもらっても・・・」

ただでさえ車が無くて計画が倒れてしまったのにそのうえビッグビーバー持参では動きがまるで取れない。佐都子はますます悩んでしまった。

つづく・・・・・

フレイザーと一緒にいるのもあと半日・・・。楽しい思い出が作れるでしょうか?また来週(^^)/~~~


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