Round-Robin From Japan  第5章 バナナケーキ            第6章はこちら

「Hi」フレイザーの顔に笑顔が咲いた。
「Hi」
「We meet again.
またお会いしましたね。
フレイザー独特のやさしい、落ち着いた口調が聞こえる。
でも昼間会ったときより気持ち元気が無い。
「yes,ah What are you doing? 
何をしているのですか?」佐都子は素朴に聞いた。
「I'm reading a book.  
本を読んでいるんです。」
(そんなの、見りゃわかるわよ…・)相変わらず正直というか素直というか…彼らしい返答だ。
「A・・Are you in some kind of trouble?
なんかお困りですか?
「No,no no no…・・No. I'm fine …・Ah (-_-) Actually yes. 」
最初は否定したものの彼は困っていることを声に詰まらせながらも認めた。聞くと今夜の宿泊場所を探しているのだという。
彼の持っている本のページを覗くと「歌舞伎町エリア」と日本語で書いてある。
(ぎょっ。どーゆーとこにあなた泊まろうとしてんのよ?そんなところに行ったらまたナンパされちゃうでしょうが…もうほっとけないんだから…)佐都子は呆れた。

 実はホテルジャンキーな佐都子はこのへんのホテルにも当然詳しい。よってフレイザーにホテルを紹介するのは容易なことだった。まず、彼女の頭の中にはパークハイ○ットが浮かんだ。夜景もきれいだし、部屋も広いし、心地よいホテルライフは保証つきである。しかし…彼の雰囲気はよく言えば倹約的、悪く言えばセコそうだと感じた彼女はそれはボツにした。(…・とするとセンチュリーハイ○ットあたりかな…バナナケーキもおいしいし。…)
とにかく甘い物好きの佐都子は ケーキがおいしいホテル = いいホテルになってしまう。よってついつい彼に勧めてしまった。

「I know a good hotel not far from here. It's Century Hya○t
近くにいいホテルを知っています。センチュリーハイ○ットといいます。」
「Fine. Would you tell me how you get there?
そこへはどう行くんでしょうか?
「You go straight ahead for two blocks,turn right…
えっとここを真っ直ぐ行って二つ先を右に曲がって…・・」と話し始めたが英語力のなさでうまく説明できない。よって結局またフレイザーを連れてホテルまで歩いていくことになってしまった。

 二人でとぼとぼと夜のビルの間を歩いていくと対向車のライトがフレイザーの横顔を照らす。(夜、見る彼も本当に美しいな…・)と佐都子は内心ドキドキしながら歩いていた。
そうこうしているうちにホテルに着いた。(あーこれで本当にお別れなんだ…・。)寂しいようなホッとしたような複雑な気持ちである。
「It's very nice. It's central, convenient. I could walk to PD in seven minutes
素敵なホテルですね。署にも近く便利です。」フレイザーは佐都子の気持ちも知らず単純に喜んでいる。

 彼が無事チェックインし署にも連絡したのを見届けた佐都子はフレイザーにお別れを言おうとした。
「This hotel is very famous for sweet Banana cake. It tastes pretty good. you might try.
So I should go.
ここバナナケーキが美味しいんですよ。よかったら食べてみてくださいね。では…


 足早に立ち去ろうするとフレイザーが呼び止めた。
「Satoko!」いきなりファーストネームを呼ばれてちょっと驚いてしまった。
「Would you care for some coffee?
コーヒーでもどうでしょうか?
「へっ??」
佐都子のびっくりした表情に慌ててフレイザーはこう付け加えた。
「As expression of my appreciation
感謝の気持ちとしてです。And I'm interested in Banana cakes. それにバナナケーキがおいしそうですし。」

 佐都子はこれ以上フレイザーと関わるのは気が進まなかったがバナナケーキに心が揺らいだ。
躊躇している佐都子にフレイザーが例の優しい笑顔でうなずいている。
誘われるままに佐都子はフレイザーに続いてホテル内のコーヒーショップに入った。
テーブルをはさんで向かい合ってフレイザーと座るのはとても気恥ずかしい。佐都子は終始、うつむき加減だった。でもそんな緊張をまたいつものようにフレイザーがといてくれた。

「I've ever eaten my shoes. I boiled my shoes. My oxfords. My left oxford to be exact.
私は靴を食べたことがあるんですよ。オックスフォード。あの底の浅い靴。まあ正確に言うと左の靴ですけれどね。
「えっ?」
「When I was little,my grandparents and me went to Aklavik ,one day I wandered off alone when they were window shopping. There I was all alone in a big city. I became hungry. Very hungry. I didn't know anyone. I didn't have any money. I was desperate.
子供のころ、祖母に連れられて、アクラヴィクに行ったときです。彼らとはぐれてしまった私はとてもおなかがすいてしまったんです。大きな街で誰も知る人もいなかったですしね。おなかが空いた私は必死だったんですよ(笑)」
語り始めた彼はまた一人でウケて楽しそうに笑っている。

(なんか、面白い人かもしれない。フレイザーって…)
佐都子は気取らないフレイザーを前にして急に、気が楽になった。

数分後、バナナケーキ到着

ケーキを一口食べたフレイザーはまるで子供のようににこにこしている。
「It's delicious. I have never tasted like this.
おいしいですね。こんなに美味しいケーキは食べたことがありません。

そんなフレイザーを見ているとまた彼への興味が出てきてしまった。そして気がついたら彼への質問が口をついて出てきていた。
「Do you mind me asking why you came to Japan?
どうして日本に来たか聞いてもいいですか?
一瞬、フレイザーのフォークが止まった。
(どうしよう? やっぱり聞いてはいけなかったんだ。)佐都子は急に気まずい空気にどうしていいかわからない。
「I'm sorry. No hard feeling, You don't have to answer
ごめんなさい。悪気はないんです。答えなくていいです。」
と、とりあえず謝った。佐都子は泣きそうである。

佐都子のアセった表情にフレイザーは首を振った。
「You don't have to apologize.
いいえ、気にしないで下さい。」

 そしてゆっくリフレイザーは事件のいきさつを話し始めた。いままで見たことがない真剣な表情で…・。
フレイザーは彼がある殺人事件の犯人を追っていること、その犯人は日本にいてその捜査の進捗状況を確かめるために日本に来たこと、しかし、不幸なことにも日本の担当刑事が急に不在になってしまって一向に進む様子がないこと・・・・などをゆっくり語った。
また彼は休暇を取って来ていて日本にはあと4日しかいられないという。

話し終わった彼の瞳はガラス玉のように愁いに沈んでいる。
美しい瞳が哀しみにくれるのを見るのはとても辛い。何か力になれることはないのだろうか?そう考えた佐都子は思わず身を乗り出して聞いてしまった。
「Do you have any clue? name or company or something?
なんか手がかりはあるんですか?名前とか会社の名前とか…」
「Yes, The company. But unfortunately I can't read.
はい、会社の名前ぐらいは知っています。でも読むことができないんです。
フレイザーから渡された紙を見ると「腹黒商事」と書いてある。
(なんつー名前なのよ。
へんちくりんな名前。 こんな名前そうそうないわ…・)と思ったら調べる自信が沸いてきた。
「any ring a bell?
 なんかひらめいたんですか?
「Internet! we can search it on Net. Shall we?
インターネットよ。ネットならなんかわかるかもしれない。さあ行きましょう。
佐都子はフレイザーにホテルのビジネスセンターへ行って調べることを提案した。

 二人は立ち上がり、キャッシャーに向かった。佐都子が支払いをしようとすると、フレイザーが彼女の手からビルをとり「Let me pick up the tab.
私に支払わせてください。」と軽くウインクした。今回は彼の申し出に甘えることにした。

しかし、数分たっても支払いが終わらない。佐都子が心配して覗きに行くと何かもめている様子である。

「I'm terrible sorry. All I have left is Canadian.
誠に申し訳ありません。カナダドルしか持っていなくて…。」

結局ここは佐都子が代わりに支払うことになった。

「I'm so sorry.
本当にすみません。」フレイザーはとても悪びれた様子だ。
「 It's piece of cake.
たかがケーキです。おやすい御用です。」佐都子はちょっとジョークっぽく笑った。
「Oh really Piece of cake. you can tell.
確かにケーキですね。そうですね。」つまらない佐都子のシャレでフレイザーに明るさが戻った。


                   (2003.3.16)

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さーて、フレイザーは犯人の手がかりを掴むことができるのでしょうか?続きはまた来週 (^.^)/~~~