Round-Robin From Japan  第3章  dueSOUTH南口    第4章はこちら

 ホームから降りた彼は都会の雑踏がよほど珍しいのかキョロキョロしている。
「あー Which direction would you like to go? どっちの方向へ行きたいんです?」と佐都子は彼の顔を見上げた。
佐都子に気がついた彼は安心した表情でこう答えた。
「Due South ....... that's the way I'm going. 南へ行きたいんです。
「Due South…….just same way. this way南口ね じゃあちょうど一緒だわ こっち
「fine thank you kindly.」
二人は南口に出た。

(さーこれで本当にお役はおしまい。じゃあと言って別れるだけだわ…)
佐都子はやっかいな外国人とこれで別れられるかと思うと急にほっとした。
フレイザーはポケットからコンパスを取り出して、方角を確認している。そして佐都子の目を見てこう言った。
「I'm fine. I think I can handle it from here .I appreciate your kindness.ここからはもう大丈夫です。ご面倒をおかけしました。あなたのお心使いに本当に感謝します。」
佐都子もこれ以上かかわっている暇はないので別れることにした。

 軽く会釈して佐都子が振り向いて歩き出した瞬間だった。背後で若い男の声がしたのである。
 「よーよー兄ちゃん、かわいい顔してんな。ウチで働かない?」 
 気になった佐都子が振り向くとフレイザーにヘンなチンピラが声をかけているではないか。
 彼は首をかしげ「I'm afraid I can't understand Japanese.」と申し訳無さそうに真面目に応対している。
(もうー 何、まともに相手しているのかしら?ほんとほっとけないんだから。)
 佐都子は慌ててフレイザーの近くに寄っていった。
そして「あっすみません。この人私と一緒なんです。日本語全然わかんなくて。じゃあ失礼します。」とフレイザーの袖を掴んで足早に前方に歩き出した。

「I'm sorry I can't understand what they say.あっ すみません あの方々が仰る意味がわからなくて…
フレイザーは佐都子につままれながら困ったように言った。
「No Problem. there would be nothing to do with you.気にしないでください。関係ないことです。
「Could you tell me what thay said? 彼らはなんとおっしゃっていたのでしょう
「They said "Are you Canadian?"彼らはあなたがカナダ人かどうか聞いただけよ
佐都子は適当に言葉を作った。
「Oh Yes, I'm Canadian. I 'll be right back.じゃあ Yesだ ちょっと話してきます。」
(あーもう信じられない。) 駆け寄ろうとするフレイザーの袖をまた佐都子はひっぱった。
「They might be very busy. Leave them alone.あの人たちは忙しいみたいだからいいんですよ!
「Anyway Do you mind I ask you where you'd like to go? ところでどこへ行きたいんです?」と彼の注意をそらすために話題を変えた。
彼は新宿警察署に行かなければならないと答えた。

(げっ。またまた一緒の方向だ…・)
佐都子は一瞬アセった。だがここまで聞いといてほっとくわけにはいかない。
「I happen to go to same way. I will go part of the way with you. We should be there in about 10 minutes. たまたま一緒の方向ですからご一緒しましょう。10分ぐらいでつきますから…・
と恐る恐る提案した。
すると彼の顔がパッと夏のひまわりのように輝いた。
「That's very generous of you. I can't thank enough.そうしていただくと本当に助かります。」彼は心から喜んでいる様子である。

(本当に一緒の方向なんだから…・)佐都子はそう自分に言い聞かせた。

3月初めの暖かい日差しに包まれながら二人は高層ビル群の間を抜けていった。
フレイザーはよほど高いビルが珍しいのだろうか、終始、ビルを見上げている。
佐都子は何かこの辺の観光名所など気の効いたことを話したかったがとにかく突然のことなのでまるで浮かばない。浮かぶのは彼への好奇心ばかりばかりだった。
(どうせあと10分たったら一生会うこともないし…)と考えたら質問する勇気が急に沸いてきて思わずこう聞いてしまった。
「Where is your hometown? 故郷はどちらなんです?」
「Me? Well I grew up with my grandparents in Inuvik.イヌヴィクで祖父母と育ったんです。
「Yukon Territory?ユーコン準州ですか?
「You know Yukon? ユーコンをご存知なんですか?
フレイザーは青い目を大きく開けて驚いている。何千マイルも離れている異国で自分の故郷のことを知っている人がいることにびっくりしたに違いない。
「Yes, I like dogs, so Yukon quest come to my mind.えーまぁ犬好きですから。ユーコンクエストが頭にふっと浮かびまして…
と日本で昨年犬ぞりレースの特集を放送されたことを話した。
その後、彼が犬ぞりが得意でテロリストから犬ぞりで必死に逃げた話をはじめ、二人の会話も打ち解けたものになってきたのだが・・・・そのときである。…無情にも新宿警察署の文字が飛び込んできた。

(これで正真正銘本当にお別れ…・・)

「I have no word to express my appreciation. Thank you kindly.本当に助かりました。有難うございます。」
「my pressure. It's really nice to meet youどういたしまして。お会いできて楽しかったです。」
「So do I私もです。
「Good by.じゃあさようなら
「Good by」
フレイザーは警察署への階段へ登って行き、佐都子はまっすぐ道路に沿って歩き出した。

(なんなんだろう このすごい寂しい気持ちは…・なんなんだろう…・)

振り向いたら余計寂しくなりそうで佐都子は絶対振り向かないよう心に決めて歩きつづけた。しかし100mほど歩いたところ、一つ目の信号でとうとう耐え切れなくなって振り向いてしまったのである。
「どうして?」
フレイザーがなんと佐都子を見送っていたのである。そして佐都子と目が会うと右手を挙げて挨拶をした。
(信じられない…ずっと見送っていてくれていたのかしら?)
佐都子は屈託のない彼の笑顔に胸がいっぱいになってしまった。
 これが最後に見るフレイザーの姿であろう…。本当にそのときはそう信じていた。

「ばいばいフレイザー…」そうつぶやきながら佐都子は高層ビル群の中に消えていった。


***** つづく                                         (2003.3.2)

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はぁ〜なんとか着きました。これでわけのわからんカナダ人ともお別れのはずですが…
さて、このあと二人はどうなるのでしょうか? 続きはまた来週 (^.^)/~~~


ちなみにイヌヴィクはユーコン準州ではありません。佐都子の勘違いです