Round-Robin From Japan  第24章  Call me     第23章はこちら                  

再度、蕎麦を食べようとフレイザーは姿勢を正した。
深呼吸をして、額に汗をにじませ竹ざるにのった蕎麦を見つめた。
フレイザーはなんとか蕎麦をすすろうと必死なのである。

そしてなにやらブツブツ自分に言い聞かせるように独り言を言っている。

(I am perfectly capable of handling myself in any situation. I am. I am a Mountie.
例えどんな状況になっても立派に対応できる 僕は騎馬警官なのだから・・・)

そう言ってまたゆっくりと手を震わせながら蕎麦を口元に持っていった。
だが、フレイザーの手が硬直している。

見るに見かねた佐都子が声をかけた。

「別に音をたてる必要はないんですよ。」
フレイザーが瞳を見開き佐都子の方を見た。
「はっ Pardon?」
「どうぞ自由に食べてください。自分の納得する食べ方で良いんですから…」
「でも・・・・」
「おい、蕎麦がもうくっついているじゃないか。どうでもいいから早く食っちゃえよ。」
ほとんど食べ終わったレイがフレイザーの背中を叩く。
「わかったよ。レイ。」

二人の言葉に励まされたフレイザーの顔に安堵感が広がる。
結局、フレイザーは蕎麦を音をたてないで食べるように決めたらしい。

果たしてこの長い蕎麦、どうやってフレイザーは音をたてないで食べるのだろうか…・・。
パスタのようにクルクルまとめるか、一塊にして口の中に収めるか…・

佐都子はとても興味深かった。

するとフレイザーが聞いた。
「Do you mind? ちょっと構いませんか?」
「はっ?ど、どうぞ。」

見るとフレイザーはポケットからナイフを取り出している。そしてカチャッという音をたててナイフの刃を広げると…・

ザッ ザッ ザッ と 竹ざるの上の蕎麦を威勢良く切り始めた…・・

一瞬にして蕎麦が3cmぐらいのコマ切れになった。
incredible (汗)  佐都子もレイもあっけにとられている。
フレイザーはニコっと笑うとナイフをしまい、嬉しそうに一口大の蕎麦を何本かまとめてモグモグ食べるのだった。

「佐都子、おいしいよこのお蕎麦…。」

お口も滑らか、あっという間に平らげてしまった。
恐るべし…騎馬警官…・。佐都子はカナダ人がますますわからなくなっていった。

さて、食事も終わったが、大事なことを忘れている。
そう、外にいるハラペコディーフのことだ。
誰よりもおなかがすいているのは他でもない狼だった。

食べ終わったフレイザーがいぶかしげに佐都子にたずねた。
「ドギーパックはやってもらえないだろうか…」

蕎麦のお持ち帰りは辛いものがある。だが、ご飯ものは取り扱っているようなので握り飯程度なら頼めば作ってもらえないこともなさそうだ。

佐都子がテーブルの横を通りかかった店員を呼び止めた。
「すみません。おにぎりを2つ作ってもらえないでしょうか?」
店員は40歳半ば、髪を後ろに束ね、パキパキと店の中を歩き回っている、化粧っけのない見た目ちょっと怖い感じの女性だった。

「うちはそんなものはやっていませんよ。コンビニに行ってください。」
案の定、佐都子の頼みは却下された。
レイとフレイザーは強い声の調子とその店員のソッケない素振りでダメだというのを即感じ取った。

店員がテーブルを去ろうとするとフレイザーがサッと立って声をかけた。
「すみません。おにぎりを2つ作ってもらえないでしょうか?」

驚いたことに日本語を喋っている。佐都子の言葉をそのまま繰り返したものだったが、
完璧な日本語だ。しかも佐都子以上に丁寧な調子だ。
そして、情熱的な視線で店員を見つめている。

店員は完璧にフレイザーのLooksにまいってしまったらしい。2,3秒、ぽかーんと口を開け見とれている。

「ちょ、ちょっと待ってください。聞いてきますから…・」
と言い残すと厨房に消えていった。

5分後、銀紙に包まれたおにぎり2個がフレイザーの手元に届けられたのは言うまでもない。よく見ると 名刺のようなものがついている。店のカードかと思いきやさっきの店員の携帯の番号が書いてあるカードだった。「Call me.」なんていう添え書きまでついている。

「おまえなかなかやるなぁ。」レイがフレイザーのわき腹をつつく。
「そんなつもりじゃないよ。ただどうしてもディーフに何か食べさせたくて・・・。」
「ところで、おにぎりってなんだよ?」
「さあ。」
結構フレイザーもいい加減である。

3人は支払いも済ませ、店の外に出た。

さぞ、ディーフはおなかをすかしているに違いない。きっと不機嫌で口も聞いてくれないのではないだろうか…・

フレイザーが玄関の横、水車の横の柱につないでいるディーフのところに急いで駆け寄った。

しかし、不思議なことにディーフは落ち着いている。
落ち着いているどころか、満足しきった顔をしているのだ。

いったいディーフに何が起こったのだろうか…・

続きはまた来週(^.^)/~~~

**** つづく
      (2003.7.27)

この蕎麦シーンに関連して 別・English バージョンをサカナ色さんが投稿してくださいました。
フレイザーの緊張感が伝わってくる会話が面白すぎ〜です。 → ぜひこちらをご覧下さいませ


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※補足

フレイザーがナイフで切ってしまうのはシーズン1Diefenbaker's Day Off からでした。

※ どうしてフレイザーが蕎麦を音をたてなくてはいけないかと思ったのかですが・・・
佐都子が茶の湯の話を持ち出して、飲み物をすする音には別な意味があると説明するんです。
“The guest sips the last drop of foamy green tea into his mouth with gusto,
as an expression of deep appreciation for the hospitality”
それを意識しすぎて、フレイザーが音をたてないといけないと思ったのです。