第23章 ズル〜 第24章はこちら
【 以下は第二部 】 *** 帰り道 リヴィエラの中 バックシートの狼はしきりとお腹を鳴らしている。またよだれをたらしバタバタと落ち着かない。 ディーフの空腹は絶頂に達しているようだった。 「もうしょうがねーなー。どっかこの近くに店は無いのかよ。」 交差点を越えたところで「生そば」の看板が見えた。広い駐車場もあって車が止めやすい。レイは佐都子に言われるままそこに車を止めることにした。 「いいか?ここで?」 「ああ。」 三人と一匹は車を降りるとスタスタと店の前に歩いていった。 店は横に水車がまわり、水のせせらぎが聞こえる。そして門のまわりには蔦の葉がからまりなかなか風情のある雰囲気だった。 しかし、店の扉を見て佐都子が困ったように言った。 「どうしましょう。『動物お断り』 って書いてありますよ。」 三人は足元にちょっこんと座っているディーフに視線を落とした。 「しかたがない、ディーフには表で待っていてもらおうか。」 フレイザーはディーフにここで待つように、彼の目線にしゃがんで話し掛けた。 まるで子供に諭しているようなフレイザーの姿がちょっとかわいらしかった。 店内は昼時を過ぎているが、人気のある店なのだろう、まだかなり混んでいた。 三人は唯一空いている奥の席に通され、座ることにした。 座ったとたんフレイザーは店内をしきりに見回している。どうもあちこちから聞こえるズー、ズッ、ズル〜っという音に落ち着かないらしい。 洋食では音を立てて食事をするのはタブーだからだろうか、勢いよく蕎麦をすする雰囲気に圧倒されているようだった。 「佐都子、ここの皆さんはどうして、その…あの…(汗) こんな食べ方をするんだい?」フレイザーが眉をひそめてひそひそ声で聞いた。 「蕎麦は音をたてて食べるものなんですよ。その醍醐味はノド越しにあるんです。」 「蕎麦だけかい?」 「そういえば 日本茶の茶道でも もてなしに対して感謝の意を表すために音をたてて飲むことがありますけど…」 「感謝の意か… Sound of Appreciation…・」 フレイザーは ふーん と異文化に不思議そうな顔をした。 メニューを見てもよくわからないため、佐都子に薦められるまま、全員天ざるを注文した。 待つことしばし…・ツンと尾がたった海老の天ぷらと竹ざるにこんもりのった蕎麦が到着し、テーブルの上に所狭しと並べられた。 香ばしい天ぷらの匂いに誘われレイがさっそく箸をつけると何もつけないでバリバリとかじりはじめた。 「レイ、待ってくださいよ。」うれしそうに食べているレイを佐都子が制す。 「つゆをつけなくては味がしませんよ。この器に入っているのがつゆです…。そう、こっちの蕎麦もそうやって食べるんですよ。」 「Alright」とレイは威勢良くうなずいた。そこまではよかった。が、その後、なんとそばちょこを傾け、つゆを蕎麦にどちゃーっとかけてしまったのだった。 「ぎゃー!!!」 竹ざるから流れたつゆが一気にテーブルに広がる。テーブルがつゆ浸しになってしまった。 「信じられねえ。なんだよ…コレ!」 店内の目がいっせいに佐都子たちに集まった。 レイ、大失敗の巻である。 「すみません。初めてなものですから…」佐都子はお店の人に謝って、もう一つ、つゆをもらった。 「日本料理なんか嫌いだ…」レイはぶつぶつ言ながら蕎麦をすすっている。 よく見るとそばちょこにふんだんに蕎麦を入れ、しかもかき回して食べている。 (あーあ…・)と内心佐都子は思ったがこれ以上言うと波風がよけい立ちそうなのでほっとくことにした。 一方、フレイザーはいっこうに箸がすすまない。 「どうしたんですか?」 「できない…」(汗) 「何が…?」 「どうしてもできないよ…佐都子。」 「は?」 「僕にはできないんだ・・。音を立てて食べるなんて…。」 そう言いながらブルブル箸を持った手を震わせている。 ゆっくりと蕎麦を数本箸でつまんでつゆにつけ、勇気を持って口に持っていこうとしたが・・・・ 「あぁ・・」とそのまま崩れるように顔をそむけ蕎麦をちょこに戻してしまった。 上品で礼儀正しいフレイザーはどうしてもズルズルができないのだった。 ***** つづく (2003.7.21) The Witnessの万引きシーンから連想しました。 フレイザー どうも粋な蕎麦の食べ方に抵抗があるようです。果たして 蕎麦を食べることができるのでしょうか? ではまた来週〜(^.^)/~~~ Back |