Round-Robin From Japan  第22章  Tears            第23章はこちら

やっと終わったんだ…・・

父に何かして欲しいと頼まれた事など一度もなかった…・今回だけが父の役に立てる唯一の機会だった。だから真犯人だけは絶対に突き止めたい…それだけをずっと思ってこの数週間生きてきた。

目を閉じると父の微笑む顔が映る。
そして父の日記が頭によみがえって来た。

***
     我が息子ベントンの背丈は今、ベルトの高さだ。
     別れを言うと手を握ってきた。涙も見せずにだ。
     7歳のくせに、俺が舌を巻く程の強い男だ。
     いつかゆっくり話をしたい。

       1969年1月10日 のロバート・フレイザーの日記より(Pilot Movie)
***

フレイザーはたまらず目頭を押さえた。

「ごめんちょっと…・」
そう言うと倉庫の裏側に頭を下げ走っていった。

「あれ…・どうしたんだろ?」佐都子が首を傾げる。
「おまえ、相変わらず "鈍" だな。 しばらく一人にしてやれよ。」レイが静かに言った。

そうこうしているうちに犯人たちは、警察に連行されていった。取り囲んでいた群衆やテレビ局の一団ももう去っていない。
パトカーのサイレンがだんだん遠くなって、しまいに消えてなくなった。

倉庫前の空き地は何も無かったかのように静寂を取り戻した。
チッチッチッ…ときおり小鳥のさえずりが樹木の合間から聞こえるのみである。

「ちょっと、俺見てくる。お前らはここにいろ。」そう言い残すとレイは倉庫の裏側へ小走りで向かった。

倉庫の裏側は光が遮断され、ひんやりとした空気がたちこめている。
その中でフレイザーは壁に頭をつけて小刻みに肩を震わせていた。

ガサッ。レイの靴が足元の砂利を蹴った。

その音に気がついたフレイザーは急いで壁から頭を離すと、目尻の涙をさっと手の甲でぬぐった。

「大丈夫か?」レイが心配そうに近寄る。
「ああ。」
とっさに笑顔を作ってフレイザーは取り繕おうとした。
泣かないように…泣かないように一生懸命こらえているような笑顔だった。
それなのにフレイザーの瞳は碧い硝子のごとく潤み、真珠のような粒が頬をつたってこぼれ落ちていく。

「ベニー…・」

その姿があまりにも不憫でレイは思わずフレイザーのことをこう呼んでしまった。
そして透きとおるような白い頬に手を差しのべ、人差し指で彼の涙をすくった。

フレイザーの涙は想像した以上に熱い。

とうとうレイは耐え切れずフレイザーの肩に手を回すとギュッと自分の胸に抱き寄せてしまった。

「強がらなくていいぜ。ベニー・・・。辛かっただろう…・。」

レイがフレイザーの耳元でそっと囁く。レイの瞳にも涙が浮んでいた。

 突然ですが 中略 

****

場面は倉庫の外…・

「あっち向いて ホイッ」
取り残された佐都子とディーフはゲームをして待っていた。
ディーフ、何度やっても「ホイッ」 の方向を向いてしまう。

「あんたってダメね…」フレイザーが倉庫の陰で悲嘆に暮れているのも知らずに ケラケラケラッ…・と脳天気に佐都子が笑っている。

「それにしても遅いなぁ…」倉庫の方をちらっと見たが、いっこうに誰も出てくる気配はない。
「覗きに行こうか?」 ディーフに話し掛けるとディーフも「そうだ、そうだ。」と言う顔をしている。

ゆっくりと佐都子とディーフは倉庫に近づいていった。

(なんだろう、この後ろめたい気持ちは…?)佐都子は歩きながら自分が何か見てはいけないものを覗きに行くような罪悪感を感じていた。

だんだん、倉庫の壁が近づいてくる・・・しかし人の話し声どころか、物音さえしない。
おそるおそる裏側を覗くと…………・・

バサッ…と音がして、暗がりの中にあった一つの影が二つに分かれた。そしてその影はブンブンと動き始めたのである。

「何しているんですか?」佐都子には状況が把握できない。
「う、う、運動しているんだよ。」レイの答えは声が上ずり気味だ。
「運動?」
「そ、そうだよ、最近、体ナマっているからな。なあフレイザー。」
見るとレイは屈伸をし、フレイザーは両手を左右に振っている。

いかにもそらぞらしい素振りだったが佐都子はまるで気がつかない。それどころか自分も一緒になって手をラジオ体操のように回し始めた。

「おまえ何やっているんだよ?」
「運動ですよ。私もナマっているんです。最近…」
佐都子の足元を見るとディーフまで調子を合わせて首を回している。
「おまえらまでやらなくていいんだよ、まったくぅ!」

レイが呆れる。

その数秒後…・
ぎゅるぎゅるぎゅる〜 とお腹の鳴る音がした。
狼のお腹だった。大活躍のディーフはもうハラペコだったのである。

「おまえらなァー・・ せっかくの雰囲気がぶち壊しだ。行くぞ。」
レイが半分怒ったように言うと表にスタスタと歩いていった。

その後に続く佐都子が何気なしにレイの背中に向かって聞いた。
「雰囲気がぶち壊しってどういう意味です?」

ギクッ(大汗)…レイの肩が一瞬固まった。

「おまえ…鈍感なくせにツッコミだけは鋭いな…」(汗)

クスッ…佐都子のすぐ後にいたフレイザーが笑った。

フレイザーにようやく本物の笑顔が戻ってきたようだった。



「あー気持ちのいい青空だな〜。」表に出たレイが両手を空に向かって伸ばし、深呼吸をする。
遠くからは競馬場の歓声が聞こえる。もう競馬場も元通りレースが始まったらしい。
フレイザーも晴れやかな顔をして遠くの空を見渡している。

「さあ、飯でも食いに行くかぁ。」

レイの声にフレイザーと佐都子はにっこり笑って答えた。ディーフもワンワン!と尾っぽを振って同意している。

事件を無事解決した三人と一匹はすがすがしい気持ちで一杯だった。

めでたし・めでたし…・

ここで第一部は終了です。


つづく

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                                              (2003.7.13)

フレイザーが元気になってよかった。よかった
。続きはまた来週(^.^)/~~~

(自分で泣かせておいてよく言うよ→自分)・・・・
H/Cになりかけていますが・・・あくまでも同情ということで・・・