青い倉庫のすぐ外では腹黒商事の男たちが懸命になって倉庫内のドラッグをトラックに運び込もうとしていた。 ボスらしき男が部下をせきたてる。 「おい、何のろのろしてやがるんだ。いつサツが嗅ぎつけるかわからねえ。さっさと積んじまいな。」 そう言うと吸いかけの煙草を口に持っていった。 と、そのときである。遠く競馬場のほうから何やら煙のような砂埃が立ち上がり、それが段々こちらに近づいているのに気がついた。 男はサングラスを外して目を凝らした。 砂埃の先頭は白い綿のような物体。そしてその後には人影のようなものが見える。 そう、先頭はディーフだった。 ディーフは相変わらず大車輪のように両手両足をかき回して激走している。少し離れてお腹を突き出し仰向け気味で重い体を引きずって走る植田警部補がいた。 テレビクルーたちはカメラを覗き、レポーターはマイクで実況中継しながらついてくる。 続いて競馬場の観客がまるで青梅市民マラソンのように群集となって駆けて来る。 全員が何がなんだかわからないで走っているのだった。 今まで見たことの無い不思議な光景にボスの男は唖然とする。 それはまるで戦国時代の兵隊がこちらに突進してくるように男の目には映ったのだった。 そうこうしているうちに、段々と群集が近づき、それにつれ地響がしてきた。 これはただならぬことだ…・。察した男は血相を変えて、慌てふためきながらバンの中に隠れた。他の男たちもバンの後ろに走っていき一斉に身をかがめた。 「なんだよ。あれ。」「知るか!」 さっきまで威勢良くライフルを構えていた男たちがブルブルと声を震わせる。 やがて群集は先頭のディーフの姿が認識できるまで近づいてきた。 地響きがより一層激しくなる。地面からは湧き上がるような歓声。刻一刻と迫ってくる群集。 あと100m、50m、そして10m……・・!!!! *** 一方 場面は冷蔵庫の中 フレイザーは冷蔵庫の扉を開けようと横にあるロックを針金のようなものでいじっていた。カチャカチャいう音が冷蔵庫内に響いている。 気になったレイがヨロヨロとフレイザーの背中に近づいて行って、後ろからそっと覗き込んだ。 ビクッ。急に人影を感じたフレイザーは驚いて振り返った。 その瞬間である。 前に乗り出したレイの顔とフレイザーの顔が1cmの距離もないほどに接近してしまった。アメリカ人の鼻とカナダ人の鼻が触れる。グリーンの瞳にブルーの瞳が映る。 互い息が互いの唇に吹きかかる。 ほんの1秒の出来事だった。 「ひゃあ!なんだよ!急に振り返るなよ。」レイが弾き飛ばされた磁石のように後ろに跳ね返った。 「すまない。レイ…・・。」 「うっせえ、知るか!」 レイは尻もちをついたまま吐き捨てるように言った。息も荒い。 シュンとしたフレイザーが上目遣いでレイを見た。そして親指でまゆを掻き困ったような表情をした。 「うまくいかないんだ。」 「な、何がだよ。」 「扉が開けられない。」 そう言うとフレイザーはまた元の姿勢になりロックのメカニズムを熱心に解明し始めた。 レイはブルっと頭を振るともう一度フレイザーの背後に近づいた。 そして今度は少し距離を置いてフレイザーの肩越しにロックを覗き込んだ。 しかし、その視線はロックからフレイザーの首筋に移された。 寒いのに冷や汗が出ているのであろうか…フレイザーの生え際の毛は少し濡れてカールしていた。 吸い寄せられるように見つめるベッキオ…・ 唾を飲み込むとレイがゆっくりかすれた声で言葉を発した。 「もし…・ここから出られなくても…・万が一ここから出られなくても…おまえに…言っておきたい…ことがある…・。」 フレイザーの手が止まる。そして今度はゆっくりと振り返ってじっとレイの瞳をとらえた。 レイが軽く頷く。 フレイザーも頷き返すとまた頭を元に戻して操作を続けた。 レイの目線はまだフレイザーの横顔に釘づけになったままだった。 「言っておきたい…・ことがあるんだ…実は俺、初めて会ったときから…おまえのことを…」 フレイザーが再び頭をレイの方に向ける。そしてまた見つめ合う。 そしてフレイザーはまた作業を行う。 レイの目がうつろになって、声がうわずってきた。 「初めて会った…ときから…・おまえのことを…・ 」 カチャッ ロックが外れた音がした。 「開いたよレイ…・。 それで何だい?」 フレイザーがにこっと無邪気な顔で微笑んだ。 レイがハっと目を開き、真顔になったかと思うと 一気に噴出すように言った。 「おまえのことを…・世界一イラつく奴だと思っていたんだよ!!! まったくぅ!」 レイはゼイゼイと肩で息をしている。 「よくわかんないけど。ごめん。。。レイ。」 フレイザーにはレイの言っている意味がわからなかったがとりあえず謝った。 そして姿勢を正すと冷蔵庫の戸を一気に開けた。もあぁ〜と温かい空気が庫内に流れ込む。 「はあ…助かったな。」レイがやれやれという表情をした。 しかし佐都子の声がしない。 庫内をぐるっと見回すと隅で佐都子がダンボールの上で石のように固まっているではないか。 「まさか…もう死んじまったか?」 レイとフレイザーが焦って佐都子の側に駆け寄る。 「おいっおいっ しっかりしろ。佐都子…・」レイがペチペチと佐都子の頬を叩く。 しかし佐都子は青ざめた表情で目を閉じたままだ。 「まずい…フレイザー、彼女、意識が無いよ…・」 ***** つづく (2003.6.22) Back あららどうなってしまうんでしょう。 続きはまた来週 (^.^)/~~~ |