Round-Robin From Japan  第13章  愚かな質問            第14章はこちら

 
 ようやく3人が真面目に歩き出してすぐだった。灰色のちょっとくたびれた壁のビルが現れた。
見上げると「腹黒商事」と太いゴシック体で書かれた看板が今にも落ちそうにかかっている。
フレイザーは静かに目を閉じ深呼吸をしていた。
R:「hereここか….」.レイが緑の瞳を光らせてフレイザーを見つめる。急に緊張した空気が張りつめた。

3人はビルの周りを一周することにした。途中、フレイザーは壁の臭いを嗅いだり、風向きを確かめたり落ちつかない。しまいにはしゃがんで落ちている石を拾って舐めはじめた。
S:「やだ、汚〜い。」
R:「Oh no! That is disgusting! Put that down.  おいやめろよ〜
レイと佐都子は目に余るフレイザーの行為に言葉は違うが思わずハモってしまった。二人の顔が思いっきり歪んでいる。
F:「Sorry.すまない。」フレイザーが手をはたきながら立ち上がった。

ビルの表側は店だった。シャッターは閉まっていて中の様子は見えない。しかしシャッターに書かれている「高級毛皮」の文字からすると毛皮を取り扱っている店なのだろう。佐都子はそう説明した。

R:「What's your plan? どうするね?」レイがフレイザーをちらっと見た。
フレイザーは立ち止まり胸に手を当てて考えるとこう言った。
F:「I think I'm going to see and talk to them. まず彼らに会って話を聞いてみるよ。
R:「Do they tell the truth? No They don't. 奴らが本当のこと話すか?話すわけがねえよ。」レイが首を振る。

にもかかわらず、フレイザーはさっさとインターフォンに近づいていってボタンを押してしまった。
R:「He is an annoying man なんて奴だまったく〜。」レイと佐都子がフレイザーの後に駆け寄る。3人は緊張しながら耳を澄ませた。

10秒ぐらいして、インターフォンから落ち着いた年配の男性の声が聞こえてきた。声の様子からすると50歳前後のようだ。
男:「何か御用ですか?」
F:「Excuse me. May I have a word with you? すみません。お話があるんですが。
フレイザーが丁寧な声でゆっくり話した。
男:「はっ?」予想もしない英語に男性の声が止まる。
するとレイが佐都子の背中を押した。
R:「Your turn. 出番だ。」
S:「えええ?私が話すんですかぁあ?」佐都子は日本語でうろたえている。
F:「I don't insist on you speaking English. Let's go. 英語を喋れって言ってんじゃねえんだからさー。さー行った。

しぶしぶ佐都子はフレイザーに代わってインターフォンの前に立った。
S:「あのう・・お話があるんですけどぉ…」
男:「何の話ですか。」
(何の話って言われても…)
佐都子はとっさに言われてもわからない、そこで頭に浮かんだ文を言った。
佐都子が話し終わったちょうどその瞬間である。プツンという音がしてインターフォンが切れてしまった。
S:「あれっ???どこ行っちゃったのかしら。すみませ〜ん。」
R:「What happen? どうしたよ?」レイが首をかしげながら聞く。
S:「hung up. 切れちゃいました。
R:「What did you say? おまえ何て言ったんだよ?
S:「Does anyone here know who killed a mountie?  誰が騎馬警官を殺したか知っている人ここにいますか?って…・

はーっとレイとフレイザーは溜め息をついてうなだれた。佐都子に求めたのはただ店の人を呼び出してもらうことだけだったのにこれでは台無しだからである。
R:「Who asks so directly?  そんな単刀直入に聞く奴がどこにいるかよぉ!」レイが両手を広げて佐都子に言い寄る。
S:「F Fraser…ふ、ふれいじゃー…・」佐都子は泣きそうな顔でフレイザーを指差した。
フレイザーが下げたままだった頭を上げ目をまるくする。
S:「He said so at the Chinese restaurant yesterday. 昨日…みんなで中華を食べたとき、そう言いましたよぉ〜。

確かにフレイザーはそう言った。しかしそれはレイを手伝わせるための作戦だったのである。その言葉を佐都子は真に受けて口をついて出してしまったらしい。(第7章参照)

(どうしよう…)
自分の失敗に気づいた佐都子は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
よってフレイザーをまともに見ることが出来ない。横にいるディーフに思わず視線を落とす。

そんな佐都子の困った顔に気がついたのかディーフは慰めるように鼻をすりよせてきた。

ディーフの微笑ましい姿を眺めながらフレイザーが佐都子の肩にそっと手を置いた。
F:「Thank you Satoko. Never mind. Let's move forward. 有難う佐都子。気にしないで下さい。さぁ先に進みましょう。
佐都子は恐る恐るフレイザーの顔を見上げた。
春の日差しを浴びたステットソンハットの下に碧い瞳が輝いている。
初めて出会った日と同じ優しい笑顔がそこにはあった。

3人は気を取り直してビルの裏側に回ることにした。その後ろを狼がひょこひょことついていく。

***
<< 場面は変わって腹黒商事の事務室 >>
インターフォンに出た男がモニターでフレイザー達の姿を監視していた。彼らの姿が画面から消えると、急いでどこかへ電話をかけ始めた。
男:「あ、わたしだ。まずいことになった…・。」
***

つづく

聞き込みに失敗したフレイザー達はどうするのでしょうか。 続きはまた来週…      (2003.5.11)