第12章 GINZA 第13章はこちら
次の日の朝…・ 目覚まし時計がジリジリと鳴った。時計の針は午前6時を指している。 (昨日の出来事は本当だったのだろうか…・美しい顔立ちのカナダ人と威勢の良いアメリカ人と出会った不思議な金曜日…・) 時計のベルを止めながら佐都子は自分に問いかけてみた。部屋の様子は全然変った感じはない…もしかしてずっと夢を見ていたのではないだろうか? しばし、布団の中で考える…・。でも夢にしてはリアル過ぎる…・いちおう行ってみよう…・と仕度をして駅に向かった。 ホテルに着いたのは8:00ぎりぎりだった。朝のさわやかな日差しの中からフレイザーの輝くばかりの笑顔が見える。 「Good morning Satoko.」フレイザーが右手をあげて挨拶をした。 (やっぱり…あの人だ…。) 昨日の出来事は本当だったんだ…と佐都子は確信した。 突然、背後からどっかで聞いたようなブレーキ音。それに続いて威勢のいいアメリカ英語が飛び出した。 R:「Why do you wear the uniform? Your appearance stands out for the entrapment investigation. おまえなんで制服なんか着てんだよ! おとり捜査にそんなカッコじゃ目立つだろ!」 見ればフレイザーは昨日出会ったときと同じ茶色い制服を着ていて、頭にはステットソンハットを被っている。 F:「I have worn this uniform with pride my entire career, as my father wore his and many before him. To me it is much more than just a piece of cloth. It is a tradition that links me to every officer who has ever worn it and acquitted himself with honor and integrity. この制服は僕の誇りだ。僕の父や先輩がそうであったようにね。これは衣服というより、もっと僕にとっては意味のあるものなんだ。威厳と栄誉をもって振舞った過去の騎馬警官と僕を結び付けている伝統とでも言おうか…・」 とフレイザーがたらたら話し始めたとたん…レイがさえぎった。 R:「Enough ああ、もういい。」 F:「If you say so, actually I have an another.でもそんなに君がいうなら・・・実は別の制服を持っているんだ。」 R:「I'm afraid you mean the uniform like a hydrant. もしかして消火栓みたいな服のこと言ってんじゃねえだろうな?」 F:「You are right…if we have a couple of minutes I could run the room right now. ああそうだよちょっと時間をくれれば部屋に戻って…・」 R:「Forget what I mentioned. もういいよ。それで。」 レイがやれやれという表情をする。そしてフレイザーと佐都子に車に乗るように指示をした。 フレイザーがドアを開けた瞬間だった、横にいたディーフが車に滑り込みいきなり運転席のレイの上に覆い被さった。 R:「Whoa-whoa-whoa-what are you doing? What are you doing? He's on me! おいっ?一体何するんだ?何するんだ? おまえの狼が俺の上に!!」 ディーフは顔をレイに密着させてきて大口を開けている。フレイザーが慌てて後ろからディーフに声をかける。 F:「Dief! Dief! ディーフ!ったらディーフ!」 しかしディーフはフレイザーの方を見ようともしない。 R:「Did you see him? He was getting intimate with me! おい。こいつ俺に迫ってきやがる。」 レイはディーフを引き離そうと必死にもがく。 F:「I'm sorry, he's usually much better behaved. He's just excited about being out of the hotel room. すまない。いつもはもっと大人しいのだが、ホテルの部屋から出てきたばかりで興奮しているんだ。」 R:「You want to tell him to get off of me? おい、俺からどくように言ってくれよ」 F:「He's just deaf. And he's facing the wrong way so you just tell him yourself. Just try to enunciate. 彼、耳が聞こえないんだ。顔があっち向いているからダメだ。君がディーフに命令してくれ。さあ大きな声で言ってみてくれ。」 そうフレイザーに言われるとレイは慌てふためきながらディーフに命令した。 R:「GET! OFF! ME! 降りろ!」 そう言われるとディーフはのそのそレイから降りて後部座席に移動した。 レイはぐしゃぐしゃと手で顔をぬぐっている。 F:「Sorry. すまない。」 フレイザーが悪びれたような表情をした。 R:「You intend to bring a wolf with you? おまえ狼も連れて行く気かよ?」 F:「He would help us. 彼は役に立つんだよ。」 狼と後部座席に乗るのはカンベンだと思った佐都子はフレイザーに先に乗るように勧めた。 F:「Understood. わかりました。」フレイザーは帽子のつばに手を添えて軽く会釈し、車に乗り込んだ。 バタンと佐都子が車のドアを閉めるやいなやレイが猛スピードで発進した。 *** 30分もたたないうちにリヴィエラは銀座に到着した。 土曜の朝の銀座はまだあまり人気がない。 適当な駐車場に車を預けると3人と1匹は街をとぼとぼと歩き出した。 S:「This way こっちです。」佐都子に言われるまま3丁目方面に進んでいく。 店はまだ閉まっているがショーウインドウ越しにあでやかな衣服やカバンが見えた。 フレイザーはもの珍しそうな顔をして華やかな街並みを眺めている。 三人は横一列に歩いてたが気がつくとレイの姿が見えない。 (あれっどこへ行ったのかしら?) 振り返るとレイがアルマーニのショーウインドウの前で立ちすくんでいる。 フレイザーと佐都子はレイのそばに駆け寄った。 「Hello? もしもし…?」 佐都子がレイの顔を不思議そうに見上げる。 レイはアルマーニのスーツに見とれ完全に自分の世界に入ってしまっているようだった。 R:「Cool Suit. かっこいいスーツだ…」 S:「Sorry to interrupt your enjoyment. but We'd be here for the another reason. お楽しみのところ悪いんですが…私たち別の用事があるんですよ…」 と佐都子がツンツンとレイの袖をつついた。 フレイザーが恍惚となっているレイの肩に手をまわし、向きを変えさせた。 R:「Oh Great…あーあ そうかそうか…」 レイが名残惜しそうに言う。そしてまた3人は歩き続けた。 50mぐらい歩いたところだろうか…今度は佐都子の姿が見えない。 振り返ると佐都子がエルメスの店のショーウインドウにくぎつけになっている。 今度はレイが佐都子に向かってこう言った。 R:「Hello? もしもし…?」 S:「素敵なカバンだわ〜」佐都子の目がとろーんとなっている。 R:「Sorry to interrupt your enjoyment. but We'd be here for the another reason. お楽しみのところ悪いんだが…俺たち別の用があるんだよ。」 と佐都子の袖を引っ張りそのまま引きずって前を向かせた。そしてまた3人は歩きつづけた。 横断歩道を渡ったところで3人はディーフがいないことに気がついた。 振り返るとマグドナルドの店頭でディーフが鼻をならしてお座りをしている。目は"朝マック"の看板を凝視してい るようだった。 フレイザーが駆け足でディーフのところに近づいていって強い調子でお説教をした。 「Do I have to remind you that you've already had your breakfast , have you forgotten that? It's hopeless. I'd mail you back to the Yukon. もう朝ごはんは食べただろ?忘れたのか。しょうがない奴だな。もうユーコンに送り返すぞ!」 ディーフの脇を軽くたたくと、こちらに導き連れてきた。 そして3人はまたトコトコと歩き始めた。 もうこれ以上何も起きないと思ったのだが…・・50m歩いたところで主役のフレイザーが脱落している。 振り返ると"ヴィクトリア宝石店"の前で思いつめたように立ちすくんでいる。 レイと佐都子がフレイザーに駆け寄る。 R:「Hello? もしもし…?」 レイが話し掛けるがフレイザーの耳には入っていないようだった。 フレイザーの口からは何かかすかに独り言が聞こえる。 レイと佐都子は顔を見合わせ考え込んでしまった。そしてひそひそ声で佐都子がレイに言った S:「He recites the poem. 何か詩を暗誦しているようですね。」 R:「Leave him alone? ほっとくか?」 S:「We can't do that. そうはいきませんよ。」 F:「Sick Rose 病める薔薇よ…」 とフレイザーが語り終わったとたん、「ワン!」ディーフが一吠えした。 ディーフの声で我に返ったフレイザーは突っ立って呆れているレイと佐都子に気がついた。 F:「Sorry. Shall we. すまない。さあ行こう。」 彼は取り繕い笑いをすると頭をブルっと振るいサッサと早足で前へ歩いて行く。 その後をレイと佐都子が首をかしげながら追いかけた。 歩きながら3人ともこう考えていた。 (この連中と一緒に捜査して大丈夫なのかと…・・) **** つづく (2003.5.4) Back みんな捜査に集中していませんね。大丈夫なんでしょうか? 続きはまた来週 (^.^)/~~~ |